LOGIN34.
井川美沙都を(いがわみさと)は守備力で右に出る者はいないとまで言われた一流の女流雀士だ。
その実力は誰もが認める所だが、しかし大きな勝負で優勝するのはいつも白山詩織(はくざんしおり)か財前姉妹(ざいぜんしまい)だった。そのことがミサトは悔しくてたまらない。
自分の麻雀に限界を感じ。今のままを繰り返した所でナンバーワンにはなれない。そう悟ったミサトは自分の殻を破るための冒険の旅に出ることを決意した。
これは【財前姉妹】の後の世界をミサトを主役として書いた冒険の物語!
三章 護りのミサト!
~女流雀士冒険譚~
その1
第一話 打倒! 財前姉妹!
『優勝は井川美沙都プロ!』
ワアアア! ワアアア! ワアアア!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
大歓声と拍手の雨だ、とても誇らしい。私は優勝したんだ。
(ん? 優勝した? そうだっけか? 何で優勝したんだっけ。思い出せない……)
────
──
「ハッ!」
「あっ、ミサトおはよう」
「……あーー……ユキ、おはよう……夢、か……」
────
私は井川ミサト。デビューして即で新人王戦優勝。その後も数々の大会で決勝戦まで勝ち残り一世を風靡した女流麻雀プロよ。そう、決勝戦まで……。
でも、勝つのはいつも白山シオリか財前姉妹。シオリさんとカオリとマナミ。あの3人の強い事。私は新人王戦以外結局優勝することは無かった。夢で見たような大歓声の中での優勝などしたことはないのだ。
このままではダメだと思って大学卒業後はメイドカフェ『リンリン』でバイトして貯めていたお金で大きな車(中古車)を購入し、意を決して武者修行の旅に出ることにした。それを親友の飯田雪(いいだゆき)に話すと……。
「私も行く! 私も連れてって!」
「はあ? ほんの2、3日くらいで帰る旅行とは違うのよ?」
「だって、ミサトは私の麻雀の師匠だし。弟子が1人付いて行く方がきっとやりやすいことも多いでしょう? 私きっと役に立つから!」
「まぁ、少し大きい車にしたから2人で暮らしても何とかなるけど。車中泊よ? 本当にいいの?」
「何とかなるんでしょ。なら決まりね」
「……もう」
強引なユキだったが……嫌ではなかった。
「……んもう。……じゃあ行くわよ! 後悔しても知らないから!」
「ありがと! ミサト!」
◆◇◆◇
こうして女2人の全国雀荘巡り武者修行ツアーが始まった。
ある時は雀荘の臨時メンバーとして活躍。
ある時は麻雀教室を開催。
麻雀の知識ひとつ、知恵ひとつを商売道具として2人の冒険者は麻雀セットだけ持って旅立つのであった。
「「打倒! 財前姉妹!」」
36.第三話 これが井川ミサトの麻雀です 対局開始してものの数分で井川ミサトはその高い技術を見せつけてきた。東3局4巡目ミサト手牌四伍④④④12345北北北 6ツモ「リーチ」打北(あれっ? てっきり④筒切りだと思ったけど)鉾田がユキと一緒になって後方から眺めている。(ポコタさんの言いたいことは分かります。④筒も北もまだ1枚残っているからアンカンして※テンパネのことを考えたら北残しの方が高くなるってことでしょ)(そうそう、僕なら絶対に符が高い方にとるけど。あとホコタね) すると2巡後に下家からもリーチが飛んでくる。「リーチ」下家手牌三三六七八⑤⑥4566782巡後ミサトツモ番ツモ④「カン」 そう、ミサトは後々引いてきた時危険な④筒をアンカンで出ないようにするために北を捨てていたのである。(見ましたか? これが井川ミサトの麻雀です) ユキが自分の事のように自慢する。(まいったな、僕ならここで放銃だ。さすが『護りのミサト』と言われるだけはある) しかし、その後……ミサトのツモ番ツモ⑦「ロン」
35.第二話 麻雀のメッカ「最初の行き先は新宿歌舞伎町よ」「ええ!? 最後に行き着く先みたいなイメージあるけど!」「だからこそよ。私たちの麻雀は最高峰クラスのものでありその技術は歌舞伎町ですら通用する。それでも私たちはノーレートや低レート、競技麻雀をする。なぜならレートに関係なく麻雀を愛しているから。そう主張するには最初に歌舞伎町制覇するのがいい」「なるほど、ハイグレードなステージから逃げて初心者講座やってるというのでは説得力がないということね。たしかにそうだ」「……ふふふ、できるかな? 言うのは簡単だけど、実際問題新宿歌舞伎町は麻雀のメッカ。レベルが高いに決まってる」 最初の行き先は歌舞伎町という事で決定となった。「ねえ、ミサト。せっかく車も買ったけど新宿は電車で行かない? 駐車場代も高いだろうし……」「そうね、じゃあ最初の旅は都内をぐるぐる山手線の旅にしましょうか」「えー面白そう」「とりあえず、1週間! 1週間の雀荘巡りで収支をプラスして帰ってくる。これが最初の目標にしましょう。できる? ユキ」「私だって強くなったんだから。やってみせるわ。ミサトにだって負けないんだから!」「おーおー、大きく出たな。頼もしい限り! よーし、じゃあ明日の朝10時に駅に待ち合わせでいいよね。そしたら今日はよく寝ること! 明日から修行の旅だかんね!」「オッケー」 まずは新宿歌舞伎町!────── 2人は
34. 井川美沙都を(いがわみさと)は守備力で右に出る者はいないとまで言われた一流の女流雀士だ。 その実力は誰もが認める所だが、しかし大きな勝負で優勝するのはいつも白山詩織(はくざんしおり)か財前姉妹(ざいぜんしまい)だった。そのことがミサトは悔しくてたまらない。 自分の麻雀に限界を感じ。今のままを繰り返した所でナンバーワンにはなれない。そう悟ったミサトは自分の殻を破るための冒険の旅に出ることを決意した。 これは【財前姉妹】の後の世界をミサトを主役として書いた冒険の物語!三章 護りのミサト!~女流雀士冒険譚~その1第一話 打倒! 財前姉妹!『優勝は井川美沙都プロ!』ワアアア! ワアアア! ワアアア!パチパチパチパチパチパチパチパチ!! 大歓声と拍手の雨だ、とても誇らしい。私は優勝したんだ。(ん? 優勝した? そうだっけか? 何で優勝したんだっけ。思い出せない……)──────「ハッ!」「あっ、ミサトおはよう」「……あーー……ユキ、おはよう……夢、か……」──── 私は井川ミサト。デビューして即で新人王戦優勝。その後も数々の大会で決勝
33.闇メン エピローグ そして伝説へ 結局『ラッキーボーイ』は閉店し、移転することは無かった。椎名は次第に仕事が減ってきたので渡邉さんに頼んで長期休暇を貰い旅打ちでもしようと思い立った。 たまにはこういうのもいい。ヤシロが鼻歌でよく歌っていた『戦場の足跡』という曲を聴きながら、気ままな旅をする。カバンには日吉オーナーから貰ったキーホルダーをつけて。 しかし、その行き先でキーホルダーを落としてしまう。すぐに気付いて引き返すと中学生くらいの少女がそれを拾ってとても興味ありげに眺めていた。「綺麗……」(これ、麻雀牌ってやつかな。真っ赤で宝石が付いてて。素敵だな)「あ、あった! ゴメンそれ僕の!」そう言う椎名の外見は細くて清潔感がありシャキッとした服装の真面目な好青年という印象を受けたので麻雀牌を落としたのが彼だというのが少女にはちょっと意外だった。(なんか、ギャンブラーとか、チンピラとかとは真逆みたいな印象の人だな。麻雀ってこういう人もやるんだ……)「キーホルダーだったんだけどとれちゃったか。気に入ってたんだけどな」 牌の上部にはネジ穴のようなものがあいていた。「お嬢さん、さっきそれじっと見てたけど、気に入ったのかな? 壊れちゃったので良ければあげるけど」「えっ、いいんですか!?」「うん。それがきっかけで麻雀に興味を持つ子が増えたりしたら僕も嬉しいし。一応とれたチェーンもあげとくね。大事にしてあげて」「ありがとうございます」「うん、いいよ。やっぱり宝石は男が持つより女の子にこそ似合うしね。きみに貰って欲しいってきっと牌も言ってるさ」 こうして、その少女は麻雀に興味を持ち、その後の麻雀界を変える程の歴史的な発見、新戦術を生み出す伝説の人物となる――◆◇◆◇牌神話テーマソング【戦場の足跡】作詞:彼方味方のいないはずの世界に味方のような顔をする奴がいる支えのないはずの場所に支えてくれそうな人がいるそんなはずはないそれは罠だ期待するな、信じるな安心するな、警戒を解くなヤツらの口をよく見てみろお前を喰らうための牙があるだろ私たちは戦士なんだ自分だけが頼りなんだ気を抜いたヤツから喰われる世界味方であるはずの男が味方ではなかったように支えてくれた人たちが全部おためごかしだったように それが世界だそこが戦場だ
32.二章 最終話 おれは闇メン 近頃『ラッキーボーイ』に闇メンが呼ばれる回数が減った。(常連の誰かに嫌われちゃったかな? だとしたら工藤さんかな?) 椎名はそんなことを想像した。 今は卓割れ中でお客さんはいないし従業員には買い物に行って貰ってるから現状オーナーの日吉さんと2人きりだった。なので椎名はこの隙にレジに置いてあるシフト表を見てみた。すると最近呼ばれる回数が減ったのがなんでなのか納得した。知らぬ間に新人が入っていたのだ。それも女の子。聞くと麻雀も打てるらしい。それじゃあ高い給料払って闇メンを呼ぶよりずっといい。 「椎名くんゴメンねえ。今は人が足りてるしそれに……」「それに?」「うん、それにこの建物は老朽化が進んでて、もうあと2ヶ月後には取り壊しなんだ」「えっ! ていうか、取り壊しなのに新人雇ったの?」「まだ、移転するかもしれないし、すごい可愛い子なんだよ。そんな子が突然履歴書持ってきたら雇わないオーナーとかは居ないだろう」 椎名は履歴書の写真を見せてもらった。 アイドルみたいに可愛い子だった。これは雇って当たり前だ。下心とかそういうのがなくても普通に採用してしまうだろう。(これは看板娘になるぞ)と思ったはずだ。「こりゃあ可愛いや。花岡縁(ハナオカユカリ)? なんだか名前までアイドルみたいじゃないか」「身長も高くて目立つんだよ。性格もまっすぐで真面目ないい子でさ」「なら、どうにか閉店じゃなくて移転にしたい所ですね」「だといいけど、まだ移転する先が見つからなくてね。まあ、そう都合良くは行かないかもね。なるようにしかならんさ…… そうそう、今日来たらしばらく渡邉さんとこへの依頼をする予定はないから…&
31.第六話 工藤、自分を知る「どっ、どういうことだ……」「何がかしら?」「いやだって今の手、明らかに字牌を絞ったノーテン……」「あら、そうだったかしら。覚えてないわ」 やられた―― つまり、このお嬢さんはオレの満ツモ条件を把握して、ラス目から出たら見逃しするだろうと読み、おれの一瞬の身体の反応から(いま見逃したな)と看破して、ノーテンからロンしたんだ。そうすれば、じゃあ倒すしかないと考えてオレがロンして二着終了させると踏んで。これはダメだ。どうやっても勝てない。ギャンブラーとしてのその器があまりにも違う――「悪い、オレ抜けていいですか。ちょっともう無理だわ」「大丈夫ですよ。次からはラスハンコールのご協力をお願いしますね」「あらあ。残念。もうやめるの?」「ああ、もうこれからは麻雀は遊びでやる。今日限りで(職人として打つのは)やめだ」「うん? じゃあ遊びじゃなきゃ今日のはなんだったのかしら?」(稼ぐつもりで打ちに来てたなんて恥ずかしくて言えるわけねえや……)「まあ、またくるよ。おつかれ」「またねー♡」──── こうして、麻雀職人だった工藤ツヨシは引退した。自分では超えられない存在をほんの短期間の間にあまりにも多く見てしまったから。 工藤は帰り道を歩きながら色々な事を思い出していた。 仲間内で最強だった頃の事。 プロ入りして先輩達をも負かした話題の新人だった頃の事。 代表や理事長と揉めて、こんな団体の看板なんか無くてもオレはプロフェッショナルとして生きて行ける